تسجيل الدخولクリスマスを心待ちにするハヤトたち。しかし、その前には四寮合同一年生総合試験が! テオとエマの仲睦まじいやり取りや、アキト先輩の軽妙な会話も見どころです。病室でミナと交わす約束、二人で考えたクリスマスの過ごし方に、温かなときめきを感じられる一話です。今回もおもしろいと思われましたらぜひブクマ、評価、レビューくださると泣いて喜びます。
十二月半ばの獅子寮は、夜が更けても共有スペースの灯りが消えなかった。窓に映る俺たちの向こうで、ルミナス市の光が白く滲んでいる。紅茶の香りが薄れた机には、開いた教材と、何度も消して書き直したノートが並んでいた。 テオはエマが答えを隠したページを見下ろし、鉛筆の先を止めた。「まず葉の状態を確かめる。それから、保存する場所を選ぶ」 エマが指を退ける。答えを照らし合わせたテオは、小さく息を吐いて丸をつけた。以前なら正解するたび騒いでいたのに、今はすぐ次の問いへ目を移している。「覚えたね。そこ、もう大丈夫」「エマの声つきで頭に入ってる」「試験中まで注意されたくないでしょ」 テオが笑い、机の端へ寄っていた彼女のカップを手元へ戻した。その自然な仕草に俺も口元を緩め、自分の教材に向き直る。最後まで残った付箋は二枚。首席を守りたいという気持ちを、今はこの一問を確かめることに集中させた。 試験期間は、思っていたより早く過ぎた。答案に向かうたび、三人で読み直した箇所が浮かぶ。最後の科目を終えてからも確認用のノートを鞄から出せないまま、俺たちは結果発表の日を迎えた。 学内の掲示画面には、人の輪ができていた。俺はテオとエマが隣にいるのを確かめ、一年の一覧を下から辿った。見慣れた名前を通り過ぎ、最上段で視線が止まる。 ハヤト・キサラギ。学年首席。 すぐ下には、二年への進級決定の文字もある。画面の白い光を見つめたまま、俺は鞄の持ち手を握り直した。嬉しい、と言葉にするより先に、ようやく机から立ち上がれたような安堵が広がる。眠気を追い払いながら解いた問題も、二人と飲んだ紅茶も、ちゃんとここにつながっていた。「……よし」 隣ではテオが袖口をつかみ、一覧の途中から目を動かせずにいる。俺は彼の名前を見つけ、画面を指した。「テオ、そこ。進級決定って」 テオが身を乗り出した。名前を読み、右側の表示を読み、もう一度名前へ戻る。やがて袖を握っていた指がほどけた。「俺も、二年になれるんだよな」「なれるわよ。わたしも一緒」 エマが自分の結果を示すと、テオは彼女の手を取った。勢いよく何か言いかけた口を閉じ、包んだ手を一度だけ揺らす。「ありがとな。何回も教えてくれて」「ちゃんと覚えたのはテオでしょ」 エマは照れたように画面へ顔を戻したが、その手は離さなかった。「わたしも、薬の
獅子寮の共用机には、冬の午後の日差しが斜めに差していた。カップから立つ柑橘の香りが、暖房の風に薄まっていく。俺は問題集の余白に小さく印をつけ、正解したはずの式をもう一度たどった。答えが合っていても、途中で迷った箇所は残したくない。四寮合同一年生総合試験の表紙をめくるたび、首席という二文字が頭をよぎる。「ここ、どうして順番が逆になるんだ?」 向かいでテオの鉛筆が止まった。エマは自分の教材に指を挟み、彼のノートをのぞき込む。「逆にしたんじゃなくて、こっちを先に確かめてるの。ほら、この条件」 細い指が、テオの見落とした一行をなぞった。彼は額にかかった髪を払い、消しゴムを動かす。紙を破りそうな勢いになると、エマがノートの端を押さえた。「ああ……じゃあ、さっきの問題も同じか?」「そう。気づいたなら、そっちも直しておこう」 叱る声を待っていたわけではないのに、その穏やかな応答に俺まで頬が緩んだ。テオもふざけず、前のページを戻って式を書き直している。「落第回避まで、あと何問?」「数える時間で一問解けるわ」「はいはい。研究責任者になる人は厳しいね」「なるために勉強してるの。わたしも、まだ分からないことばかりよ」 エマの教材には、光の病に関わる項目だけ違う色の付箋がついていた。自分の目標を口にしたあとも、彼女はテオの鉛筆が動き出すまでページを閉じない。肩が触れそうな距離で、二人が同じ式を目で追っている。「この二人、ずいぶん仲良くなったな」 紙の擦れる音に紛れるつもりで呟くと、エマが顔を上げた。「わたしたちの見物より勉強に集中して!」「してるって。ちょっと目を休めただけ」 慌てて問題集へ戻った俺の指先が、さっきと同じ行を探す。テオが笑いをこらえて鼻を鳴らし、エマも口元だけを緩めた。 一区切りつけて自室に戻るころには、窓の光が机の脚まで下がっていた。医療棟で二人と合流するまで、まだ少し時間がある。俺は保管していた封筒を取り出し、カードの角に指を添えた。 紙は薄いのに、なくなったときには、そこに書いた言葉まで取り戻せない気がした。見つかったと知らせたときのミナの声が耳に戻る。渡す前から、ずいぶん心配をかけてしまった。 引き出しの内側、手前の浅いくぼみに封筒を寝かせた。端が引っかからないよう指でならし、閉める直前にもう一度位置を確かめる。クリスマスに
ペン先が止まったまま、教材の余白に小さな染みが広がっていた。指を動かしかけても、上着の空のポケットが気にかかる。何度確かめても、ミナに渡すはずのカードの角は触れない。 獅子寮の学習室では、白い窓枠に銀の飾りが揺れていた。卓上のツリーが淡く瞬き、冷めかけた紅茶から甘い香りが立っている。パーティを待つこの部屋で、俺だけが何かを置き去りにしたように、同じ設問から進めずにいた。 向かいでエマが参考書を動かすと、テオは無言でノートを寄せた。腕が触れないほどの隙間が二人の間にある。普段なら気にも留めない距離が、今夜は妙に目についた。「ミナに渡すクリスマスカード、なくしたんだ」 口にすると、二人の手が止まった。「何でそんなこと黙ってたんだよ!」 テオが顔を上げた。思わず背筋が伸びたが、俺もペンを置いて彼に向き直った。「自分で見つけられると思った。でも、見つからない。二人にも手を貸してほしい」「最初から言えよ。ずっと隣にいたんだからさ」 強い声のあとで、テオは俺の教材へ目を落とした。解答欄の白さを見られた気がして、俺は小さくうなずいた。「マルクスは? ミナの検査結果を改ざんした奴だぞ。俺、蛇寮の近くを探ってくる」「気になる。でも、カードの件まであいつだと決まったわけじゃない」「分かってる。まず探す」 エマは端末に学内図を開き、俺のほうへ差し出した。「最後に確認したところから、順番に教えて。覚えていない部分は、そのままでいいから」 俺の答えに合わせ、通路や部屋に印がついていく。曖昧な記憶を無理に埋めようとすると、エマは指を止めて待ってくれた。「焦るわよね。大切なものだもの。でも、探す場所は整理できるわ」 頭の中で何度も繰り返していた道順が、画面の上では限られた範囲に収まった。なくしたことを考えるばかりで、探し方まで狭くなっていたのかもしれない。「ありがとう。俺は医療棟を確かめてくる。終わったら合流しよう」 医療棟の廊下は寮より少し涼しく、窓にはルミナス市の灯りが細かく映っていた。病室へ入ると、ミナが読んでいた本から顔を上げた。その笑顔に、手ぶらで来たことが急に申し訳なくなる。「渡すつもりのカードをなくしたんだ。この辺りも探していい?」「わたしへの?」 ミナは本に栞を挟み、ベッドから足を下ろした。「それなら、わたしも探す。椅子の下、奥まで
獅子寮の談話室には、湯気の立つ茶の匂いが漂っていた。白いテーブルに端末の青い光が映り、俺の手元で教材の影が薄く伸びている。窓の外では、校舎を結ぶ通路の飾りが夕暮れに輝き始めていた。そちらへ目をやりかけ、俺は指に触れる紙の端をめくった。 向かいのエマが示した箇所を、テオがペンで追う。さっきまで首をひねっていた彼は、三つの項目を囲むと、得意そうに顔を上げた。「これ、パーティの準備と同じ順番で覚えればいいんじゃないか? 場所を確認、必要なものを用意、それから動く。そうだ、当日の席なんだけどさ」 覚え方には感心したものの、最後のひと言で俺のペンも止まった。エマは苦笑し、教材の続きを指した。「席は休憩のときに決めましょう。今は、何を確認するのか答えて」 彼女の端末の脇には、服の色を書き留めた小さなメモがある。教材に挟まれかけたそれを丁寧に避ける様子からも、パーティを待ち遠しく思う気持ちが伝わってくる。だからこそ、今のうちに勉強を進めたいのだろう。俺も同じ気持ちで空欄に向き直った。 テオは二問続けて答え、間違えた箇所には印をつけた。ところが次の説明を読みかけたところで、また窓の飾りへ目を向ける。「あの色、エマの服にも合いそうだよな。俺も何かそろえたら――」 エマの指が、ページの端を押さえたまま動かなくなった。先ほどの笑みが消え、言葉の間に短い息が入る。「わたしも楽しみにしているわ。でも、二年生になったら本格的な医学生の訓練が始まるのよ。今より厳しくなるのに、集中できないたびに楽しい話へ逃げるつもり?」 テオは口を閉じた。ペンの先が紙から浮き、そのまましばらく戻らない。俺が声をかけるより先に、彼は椅子の背から身を起こした。「逃げてるって言い方はないだろ。ちゃんと考えて答えてるし、分からないところも聞いてる。少し話しただけで、何も考えてないみたいに言うなよ」 エマの眉が寄った。彼女が戻したいのは勉強の話で、テオが否定したいのは自分の取り組み方への決めつけなのだと思う。けれど、互いの顔を見据える二人には、そのずれを確かめる余裕が見えなかった。「その少しが何度も続くから、わ
獅子寮の共用ラウンジには、温めたミルクの甘い匂いが漂っていた。白い壁に照明が淡い金色を落とし、窓の向こうではルミナス市の明かりが重なっている。俺はマグカップを片手に、端末に表示したクリスマス・パーティの案内を眺めていた。開催日を指でなぞると、その数字の隣にミナの笑顔を置いてみたくなる。「ハヤト、さっきからそこばっかり見てるぞ。もう当日の服まで決めた?」 向かいのテオが身を乗り出した拍子に、隣のエマの袖に肘が触れた。彼はすぐに腕を引き、彼女の前へカップを寄せる。取っ手を受け取ったエマは、抗議する代わりに自分の膝に置いていた端末を少し傾け、テオにも画面が見えるようにした。「服はまだ。まずは、ミナと一緒に過ごしたいと思ってる」 口にしてみると、ぼんやり眺めていた日付が急に近くなった。会場に来られるかは、まだわからない。それでも、クリスマスに誰の隣にいたいかは決まっている。 テオは俺の画面をのぞき込むのをやめ、背もたれに肩を預けた。「いいな。俺もエマとゆっくり過ごしたい。いつもと違う格好で待ち合わせとかさ。同じ寮なのに、ちょっと遠くから来たふりして」 エマがカップの縁から目を上げた。呆れるかと思ったのに、彼女の唇は柔らかくほどけていた。「遠くから来たふりはいらないけれど、待ち合わせはしたいわ。着替えが終わるまで廊下で待たれるより、落ち着いて準備できるもの」 テオが早くも待つ場所を考え始める。その横で、エマは彼の袖に付いた小さな糸くずをつまみ取った。何でもない仕草なのに、二人の間だけ空気が温かく見えて、俺までカップの陰で口元を緩めた。 ラウンジの扉が開き、鹿寮のアキト先輩が顔を出したのは、そのときだった。俺たちを見つけると片手を上げ、空いている椅子の背に指を掛ける。「楽しそうだね。何の相談?」「クリスマスの話です。先輩、ちょうどよかった。光の護身術の練習も、一度――」「その相談より先に、クリスマスの重要事項を伝えたいな」 先輩は素早く椅子を引き、俺の端末に視線を落とした。その切り替えの鮮やかさにテオが吹き出す。俺は持ち上げかけた手をカップへ戻し、先輩に続きを促した。「そんなに構えなくても、まだ日程も言ってませんよ」「日程が決まる前が大事なんだよ。ハヤトに見てもらうとなったら、休憩まできっちり管理されそうだからね」 先輩は冗談めかして肩をすく
「ちょっとあんたたち、いつまで抱き合ってるのよ!」 甲高い声が響いても、腕をほどくには少し時間がかかった。胸元に寄せられたミナの身体が、呼吸に合わせてわずかに動く。病衣越しのぬくもりも、襟に触れる柔らかな吐息も、離れた途端に失われそうで、指先が布をつかんでいた。 ミナに袖を引かれ、ようやく力を緩める。覗き込んだ顔には疲れが残っていたけれど、俺を見上げる目は開いていた。背中に手を添えて枕へ戻すと、髪が白いカバーに広がる。くぼんだ寝具から、二人分の温かさがゆっくり逃げていった。 その向こうで星が揺れた。ベッド脇に置いた杖が、誰にも支えられず浮き上がっている。先ほど聞きそびれた声の主が、今度こそこちらを向いていた。「杖が喋った!」 テオがエマの肩から手を離し、指を突き出した。涙の跡が残る顔を見上げる間に、杖が一直線に飛ぶ。彼の上腕を軽く叩き、かばおうとした腕の隙間から反対の肩も小突いた。痛いというより、どちらを守ればいいのかわからないようで、テオの肘が忙しく上がったり下がったりする。「あんた、指をささないでよ!」 声の大きさでは杖も負けていない。テオがエマの後ろへ身を寄せると、彼女は助けようとして伸ばした手を途中で止め、唇を結んだ。その肩の震えが目に入り、俺まで口元を押さえる。白い壁に映る二人と一本の影が、妙にせわしない。「杖さん、かわいい」 隣から届いたかすかな声に、杖の動きが止まった。テオへ向けていた柄を下げ、今度はそっと空気を滑って戻ってくる。ミナが布団から指を出すと、その手に触れる寸前で速度を落とした。「あなた、見る目があるじゃない」 先ほどの剣幕はどこへ行ったのか。甘い声とともに星が傾き、ミナの指の下へ収まる。掛け布団に淡い光がにじみ、指が動くたびに小さな影も揺れた。俺の袖をつかむことしかできなかった手が、今は何かをかわいがっている。それを眺めているうち、つられて指先の力が抜けた。 ミナの喉から小さな笑いがこぼれた。長くは続かず、すぐ枕に頬を預けたけれど、その口元にはまだ笑みがある。寝具を直すふりで少し身をかがめ、俺も同じ高さから星を見た。「こんなミーハーに作ったつもりじゃなかったんだけど」 アキト先輩が申し訳なさそうに手を伸ばし、杖を取り上げるか迷ったように引っ込めた。説明を探す口が一度開いて、結局そのまま閉じる。作った本人まで遠慮







